エマニュエル・スウェデンボルグの霊界(マンガ版)私は霊界を見てきた‼

この漫画は、18世紀の思想家スウェーデンボルグが体験したとされる「霊界」を、マンガというかたちで分かりやすく紹介している作品だ。天国や地獄、精霊界といった世界がビジュアルで描かれていて、スピリチュアルな物語としても普通に面白く読める。

ただ、読み終わって一番残ったのは、「霊界って本当にあるのか?」という疑問よりも、「人間は、どんな世界を自分で作りながら生きているのか?」という問いだった。

作中で描かれる地獄は、よくある「罰を受ける場所」ではない。悪いことをしたから裁かれて落とされるのではなく、本人がそういう世界を望んで、自然にそこへ行き着く場所である。地獄には「凶霊」と呼ばれる、邪悪な姿の亡者が住んでいるとされる。凶霊たちは、自分の欲望を満たすことを喜び、同じ欲望を持つ者同士で集まって過ごしている。そこだけを見ると、むしろ本人たちにとっては居心地のいい場所のようにも見える。

ここで、少し引っかかる気持ちが生まれた。本人が満足しているなら、それは本当に「地獄」と呼ぶ必要があるのだろうか。スウェーデンボルグは、名誉欲や支配欲、物質的な欲望を「低級なもの」と位置づけ、霊界の太陽の光(高次の愛や秩序)に触れると凶霊たちは苦しむ、と説明している。しかし、「正解は自分の内面にある」と言いながら、結局は欲望に優劣をつけているようにも見えて、少し矛盾を感じた。

そこで自分なりに考えてみると、地獄を「善悪の場所」としてではなく、「世界の閉じ方」として捉えたほうが、しっくりくる気がした。たとえば、最近よく言われるSNSの「エコーチェンバー」のような状態だ。自分と似た考えの人や情報だけが集まり、違う意見や価値観がほとんど入ってこない。居心地はいいけれど、世界がどんどん狭くなっていく。

いま風に言えば、「今だけ・金だけ・自分だけ」で回っている世界、と言ってもいいかもしれない。短期的な快楽や承認だけが強化されて、他者との違いや長い時間軸、責任や意味といったものが見えなくなっていく。苦しくはないけれど、変化も成長も起きにくい。そういう「閉じた世界」こそが、スウェーデンボルグの言う地獄に近いのではないかと思った。

作中で「霊界の太陽の光が凶霊には苦しい」という描写も、エコーチェンバーの比喩として考えると分かりやすい。自分の考えに最適化された世界に慣れてしまうと、違う価値観や事実に触れたときに、強い違和感や不快感を覚える。まぶしすぎる光が目に痛いようなものだ。地獄とは、苦しみの場所というより、「外の世界に出られなくなった状態」なのかもしれない。

では、逆に「天国」とは何なのだろうか。天国を、単に気持ちのいい場所や、報酬として与えられる世界だと考えると、どうしても宗教っぽくなってしまう。でも、地獄を「閉じた世界」として捉えるなら、天国はその反対で、「世界がちゃんと開いている状態」だと言えるのかもしれない。

たとえば、自分の外側に「これが本当に大切かもしれない」という基準(真・善・美のようなもの)を置きながら、自分の考えや行動を少しずつ調整し続けること。他者との違いに触れ、違和感を感じ、それでも関係を切らずに学び続けること。楽ではないけれど、世界が広がっていく感覚がある。そういう状態が、現代的な意味での「天国」なのかもしれない。

ここで思い出したのが、「こんまり」さんの片づけの考え方だ。モノ一つひとつに触れて、「自分は本当にこれを大切にしているか?」と問い直す。とても地味な作業だけれど、感覚と意味と選択を、もう一度つなぎ直す行為でもある。スマホの中の情報に時間を溶かす生活とは真逆の態度だ。

さらにその先には、道元の『正法眼蔵』のような「いまこの瞬間を生きることそのものが宇宙である」という世界観や、ホワイトヘッドの「世界は固定された物ではなく、生成し続ける出来事の連なりである」という哲学にもつながっていく気がする。天国とは、どこか遠くにある場所ではなく、日常の一つひとつにちゃんと向き合ったときに、ふっと立ち上がる状態なのかもしれない。

正直に言うと、「日常の雑事を丁寧にすること」ほど難しいことはない。人の目を見て話すこと、きちんと挨拶すること、相手の話をちゃんと聞くこと。どれも簡単そうで、実際にはとてもエネルギーが要る。だからこそ、私たちはつい、スマホの中の快適なエコーチェンバーに逃げてしまうのだと思う。

この漫画は、霊界の存在を信じるかどうかよりも、「自分はどんな世界を選び続けているのか?」という問いを静かに投げかけてくる作品だった。地獄とは、遠い世界の話ではなく、気づかないうちに自分が閉じこもってしまう日常のあり方そのものなのかもしれない。そして天国もまた、特別な悟りではなく、目の前の世界にもう一度ちゃんと触れ直すところから始まるのだと思った。

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