1000円着服で退職金「1200万円がゼロ」に思う①

「これは保険じゃない。人質だ。」

今日、
バス運転手が1000円を着服して、
退職金が1200万円からゼロになった、
という記事を読んだ。

最高裁は「適法」と言ったらしい。

最初に出てきた感情は、
怒りでも、同情でもなくて、
ただひとつ。

雑だな。

ゼロ円、という数字が、
やけに平たく見えた。


1000円と1200万円。
この差を見て、
「重すぎる」「軽すぎる」と言うこともできるけど、
僕が引っかかったのはそこじゃない。

途中がない。

あるはずの途中が、
ごっそり抜け落ちている感じがした。


この感覚、どこかで味わったことがある。
そう思って、
ロンドン五輪のバドミントンの
無気力試合を思い出した。

予選リーグの勝敗で、
次に入るトーナメントの位置が、
事前に読めてしまう大会設計。

勝つと厳しい山に入り、
負けると楽な山に入る。

選手たちは、
ルールを理解して、
勝率を最大化しようとした。

結果、
「全力で負ける」
という、奇妙な最適解が生まれた。


見ている側からすれば、
不快だった。
がっかりもした。

でも、
それは本当に
選手の心が汚れていたからだろうか。

それとも、
そう動くと得になる
設計が、
そこに置かれていたからだろうか。


結末は、
「オリンピック精神に反する」
という言葉で、
即・失格

注意も、警告も、減点もない。
段階はなく、
いきなり全部。

そのとき感じた違和感が、
今日の記事を読んで、
また戻ってきた。


バスの話に戻る。

現金を手渡しで扱う。
運賃箱に硬貨は入るけど、
紙幣は人の手を通る。

抜こうと思えば、抜ける。

それは、
誰かが悪意を持ったから生まれた構造じゃない。
多くの場合、
コストを下げるために選ばれた構造だ。

機械化しない。
人を増やさない。
監査を厚くしない。

その代わりに、
「基本は信じる」
という前提で回す。


セルフレジも、同じだと思う。

万引きがゼロになる前提で、
セルフレジは置かれていない。

多少のロスは出る。
でも、それを含めても、
便利さと人件費削減の方が勝つ。

だから導入する。

つまり、
逸脱は想定内なんだ。


なのに、
逸脱が起きた瞬間、
設計の話は消える。

コストの話も消える。

代わりに出てくるのが、
「信頼」
「倫理」
「精神」。

そして結論は、
ゼロ。


ここで、
退職金って何なんだろう、
と思った。

もし退職金が
「信頼を損なわないことの保険」
なのだとしたら、
この形はおかしい。

保険なら、
リスクの高い人が高くなる。

若い人の方が、
無知で、
無茶ができて、
失うものが少ない。

信頼を損ねる可能性が高いのは、
むしろそっちだ。


なのに退職金は、
長くいればいるほど大きくなる。

そして、
一度の逸脱で、
全部消える。

この形は、
保険じゃない。

人質だ。

長くいるほど、
逃げづらくなる。
最後に大きな塊があるから、
我慢が続く。

でも、その塊は確定じゃない。

信頼を損ねたら、
消える。

今日、
僕はそこが一番怖かった。

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