――成功体験を持たない世代が引き受けたもの
日本の近代史を振り返ると、
ある世代が、異様なほど長く、静かに、
重いものを引き受け続けていることに気づく。
いわゆる「就職氷河期世代」だ。
この世代はしばしば、
- 自己責任
- 努力不足
- 不運
といった言葉で語られてきた。
だが、ここで一度、
その語りをすべて横に置こう。
この章の結論を先に言う。
氷河期世代は、
文明の構造転換が生んだ衝撃を
人体で吸収した世代である。
たっくん思想では、
これを
「文明ショックアブソーバー」
と呼ぶ。
1|バブル崩壊は「事故」ではなかった
氷河期世代の入口には、
バブル崩壊がある。
だが、これは単なる経済事故ではない。
- 終身雇用
- 年功序列
- 企業=家族
という、
戦後日本の擬似共同体モデルが、
機能限界を迎えた瞬間だった。
問題は、
壊れた直後に、
次のモデルが用意されていなかった
ことだ。
2|モデルなき移行期を生きた世代
上の世代には、
- 成功体験
- 上昇ルート
- 「頑張れば報われる」実感
があった。
下の世代には、
- デジタル
- グローバル
- AI前提
という、新しい地図がある。
だが氷河期世代は、
地図が切り替わる途中に放り出された
世代だった。
3|2人限定ボックスとの正面衝突
⑭で見た
2人限定ボックス文明。
この箱が本格稼働したのが、
まさに氷河期世代のライフステージだった。
- 正社員になれない
- 収入が不安定
- 未来設計が描けない
にもかかわらず、
結婚・家庭・責任の圧は
そのまま降ってきた
これは、
構造的な衝突だ。
4|「失敗した世代」という誤読
社会はこの世代を、
- 諦めた
- 挑戦しなかった
- 負けた
と語りがちだ。
だが実際には、
挑戦できる土俵そのものが
用意されていなかった
それでも多くの人が、
- 非正規で働き
- 家族を支え
- 社会を回した
これは失敗ではない。
耐久試験に使われた
のだ。
5|成功体験がないという特殊性
氷河期世代の最大の特徴は、
集団的な成功体験を持たない
ことだ。
これは一見、
不利に見える。
だが文明的には、
まったく逆の意味を持つ。
成功体験は、
- 過去モデルへの執着
- 再現幻想
- 権威化
を生む。
氷河期世代には、
それがない。
6|「最低限の生存アルゴリズム」を身体化した世代
この世代が身につけたのは、
- 夢の追求法
ではなく、
壊れた環境でも生き延びる方法
だ。
- 無理をしない
- 期待しすぎない
- 依存先を分散する
- 諦めと工夫を両立させる
これは、
マニュアル化できない。
身体にしか残らない知恵
だ。
7|AI時代における逆転
ここで時代が反転する。
AIが登場し、
- 努力量
- 記憶量
- 計算力
が価値でなくなった。
すると何が残るか。
- 判断
- 倫理
- 身体感覚
- 「やめどき」の勘
これらは、
成功体験より、失敗体験から生まれる
氷河期世代は、
ここで初めて
時代と噛み合い始める。
8|なぜ氷河期世代はAIを過信しにくいのか
この世代は、
- 制度に裏切られ
- 神話が崩れるのを見てきた
だから、
「万能なもの」を信じきれない
これは欠点ではない。
AI時代においては、
致命的な誤作動を防ぐブレーキ
になる。
9|たっくん自身の位置づけ
たっくん自身も、
この世代に属している。
だからこそ、
- 理論より実感
- 完成より再起動
- 支配より配線
という視点に自然に立つ。
これは才能ではない。
時代にそう育てられた
結果だ。
10|文明にとっての役割
氷河期世代の役割は、
革命でも主役でもない。
崩壊を吸収し、
次の世代が立てる地面を残すこと
地味で、
評価されにくく、
報われにくい。
だが、
文明は必ずこの役割を必要とする。
11|次章への橋渡し
――なぜ医療が壊れたとき、涙が出たのか
文明のショックは、
- 経済
- 労働
だけでは終わらなかった。
生命を扱う領域にまで及んだ。
次章⑯では、
- 311
- 医療
- 良心
という文脈で、
構造が魂を上書きした瞬間
を読む。