⑩ 音が先、言葉はあと

――言語は「身体反応の化石」である


私たちはふだん、
「言葉」を当たり前のように使っている。

考えるときも、
説明するときも、
記憶を整理するときも。

だが、ここで一つ問いを置いてみたい。

人類は最初から言葉を使っていたのだろうか。

答えは、当然「NO」だ。

では、
言葉が生まれる前に、何があったのか。

この章の結論を先に言ってしまうと、こうなる。

音が先にあり、言葉はあとから固まった

しかもその音とは、
単なる空気の振動ではない。

身体が発し、身体が受け取った音だ。


1|発声とは「意味を伝える行為」ではない

まず、発声について考えてみよう。

赤ちゃんは、
意味を伝えるために声を出しているわけではない。

  • 苦しいから声が出る
  • 不安だから声が漏れる
  • 気持ちいいから声が出る

つまり、

発声は、身体状態の放出である

言語以前の発声は、

  • 伝えるため
  • 表現するため

ですらない。

身体がそう動いてしまうという現象だ。

ここにはまだ「言葉」は存在しない。


2|聞くこともまた、身体反応である

音は、出す側だけの話ではない。

聞く側でも、同じことが起きている。

私たちは、

  • 怒った声を聞くと身構える
  • 優しい声を聞くと緩む
  • 不穏な音でゾワっとする

これは、意味を理解しているからではない。

身体が先に反応している

重要なのは、

聞くという行為も、
脳の理解ではなく、
身体全体の反射である

という点だ。


3|音は「意味を運ぶ」のではなく「反応を起こす」

ここで、言語観をひっくり返そう。

私たちはつい、

  • 音 → 意味を運ぶ
  • 言葉 → 情報を伝える

と考えてしまう。

だが、源流レベルでは逆だ。

音は、

意味を運ぶ前に、反応を起こす

意味とは、
その反応に後から貼られたラベルにすぎない。


4|音 → 母音 → 子音 → 音節

――言語の地層構造

ここで、言語の「地層」を整理してみる。

第1層|音(呼吸・振動)

最も深い層は、

  • 呼吸
  • 喉の振動
  • 身体内部の圧

ここではまだ、
「ア」も「カ」もない。

あるのは、
息と振動だけだ。

第2層|母音(身体の方向性)

次に現れるのが母音。

母音は、

といった、
口腔の開き方と身体方向を持つ音だ。

母音は、
意味というより、

身体ベクトル

を持っている。

たとえば、

  • 「あ」は開放
  • 「い」は引き締め
  • 「う」は内向
  • 「お」は包み

といった具合に。

ここでようやく、
源流語の“核”が立ち上がる。

第3層|子音(動き・接触)

子音は、

  • 破裂
  • 摩擦
  • 閉鎖

といった、
動きや接触のニュアンスを加える。

子音は、
母音という方向性に
「動作」を与える役割だ。

第4層|音節(再生装置)

最後に、
母音+子音が組み合わさり、
音節になる。

ここで初めて、

といった
50音的な構造が生まれる。

つまり、

50音は「生成点」ではなく
再生装置

なのだ。


5|言語は「便利さ」のために固められた

文明が進むにつれ、
音はどんどん固められていく。

  • 同じ音を
  • 同じ意味で
  • 同じ場面で

使える方が、
集団には都合がいいからだ。

こうして、

  • 辞書
  • 文法
  • 正しさ

が生まれる。

だが、これはあくまで後工程だ。

源流では、

音 → 身体反応 → 共有 → 固定化

という順番がある。


6|翻訳が「分かりにくい」理由

翻訳文が読みにくい理由も、
ここから説明できる。

翻訳は、

  • 意味(定義)
  • 情報

は移植できる。

だが、

身体反応の層は移植できない

母音の方向性、
子音の動き、
リズムや間。

これらがズレると、

  • 頭では分かる
  • でも体に落ちない

という現象が起きる。


7|「言葉が先」という誤解

近代以降の文明は、

  • 理性
  • 論理
  • 言語

を上位に置いてきた。

その結果、

言葉が先にあり、
身体がそれを理解する

という順序が
当たり前だと思われるようになった。

だが、これは逆だ。

身体が先に反応し、
言葉は後から追いつく

この順序を取り戻すことが、
たっくん思想の言語編の核心でもある。


8|音楽と歌が特別な理由

なぜ音楽や歌は、
言葉を超えて人を動かすのか。

それは、

言語以前の層に直接触れるから

だ。

意味を理解しなくても、
身体が動く。

涙が出る。
ゾワっとする。
懐かしくなる。

これは、
源流層に触れている証拠だ。


9|次章への橋渡し

――五十音は「完成形」ではない

ここまで来ると、
次の問いが自然に立ち上がる。

50音表は、完成形なのか?

答えは、NOだ。

50音は、

  • 生成順
  • 身体距離
  • 再現性

を無視して
学習効率優先で並べられた表にすぎない。

次章⑪では、

  • 源流核
  • 準核
  • 構造音

という階層で、
五十音を身体側から再配置する可能性を探る。

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